実車概要
T-28中戦車は、ソ連軍が戦間期に開発した多砲塔戦車である。この手の戦車としては珍しく大量生産され、格上のT-35重戦車と共に実戦に使用された。
中でもT-28は史上最も生産された多砲塔戦車として知られる。
多砲塔戦車は第一次世界大戦の塹壕戦の苦い経験から、これを効率的に突破するための兵器として開発された。
死角の多い戦車は敵工兵の肉薄攻撃が大きな脅威だったが、複数の砲塔でこれをカバーすることで戦車単独による敵陣突破が可能と考えられたのである。
1925年のイギリス製「A1E1インディペンデント重戦車」を皮切りに、世界列強は同様の戦車を開発したが、いずれも世界恐慌のあおりを受けて試作のみに終わっている。
そんな中唯一実用化にまでこぎつけたのがソビエト連邦である。初の共産主義国家として世界経済から切り離されていたソ連は世界恐慌によるダメージがほとんどなく、多砲塔戦車の生産が可能だったのだ。
T-28は走攻防のバランスを重視した中戦車として開発され、76mm榴弾砲を搭載する主砲塔を1基、車体前方にT-26軽戦車(双砲塔型)と共通の小砲塔を2基搭載する。小砲塔及び主砲塔の後面には7.62mm DT機関銃が装備されている。
1933年初頭に量産が始まったT-28は、1940年までに500両以上が生産された。
360度指向可能な砲塔に大口径の榴弾砲を装備する本車は同年代の他国製中戦車と比べて強力だったが、そのぶん大柄であり、速度を維持するために装甲もやや薄かった。
一方この時代は対戦車兵器も大きく進化した時期である。諸外国はすでに対戦車ライフルの時代から歩兵砲を進化させた対戦車砲の時代に移行しつつあった。
対戦車砲の出現によって「巨体かつ、並の装甲しかない」多砲塔戦車は活躍の機会を奪われてしまう。
それでもT-28はナチスによるソ連侵攻が始まると各地で敢闘を見せている。これは大量配備されていたこと、武装が充実していたことと決して無縁ではないはずだ。
T-28中戦車:キット一覧
スケール | 型式 | キット名称 | メーカー | 発売 | 定価 | キャタピラ | 備考 |
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1/35 | 1933 | ソビエト T-28 中戦車 初期型 | HOBBY BOSS | 2014年 | ¥8,800(税込) | プラ完全分割 | 1936年製造までのハッチ一枚タイプ <付属品> エッチングパーツ、真鍮ワイヤー |
1/35 | 1933(1937) | T-28 ソビエト中戦車 | ZVEZDA | 2019年 | ¥5,280(税込) | プラパーツ組立 | |
1/35 | 1933(1937) | ソビエト T-28 中戦車 (溶接型) | HOBBY BOSS | 2015年 | ¥8,800(税込) | プラ完全分割 | <付属品> エッチングパーツ、真鍮ワイヤー |
1/72 | 1933(1937) | T-28 ソビエト中戦車 | ZVEZDA | 2020年 | ¥2,640(税込) | プラパーツ組立 | |
1/72 | 1933(1937) | ソビエト軍 T-28多砲塔戦車(溶接仕様) | TRUMPETER | 2018年 | ¥2,640(税込) | 一体成型 | 全溶接は初期の特徴である |
1/100 | 1933(1937)/1940 | T-28 ソビエト中戦車 | ZVEZDA | 2020年 | ¥660(税込) | 一体成型 | 砲塔アンテナも再現 2種類からの選択式 |
1/35 | 1938(T-28B) | ソビエト T-28 中戦車 (リベット接合型) | HOBBY BOSS | 2015年 | ¥8,800(税込) | ||
1/35 | 1939(T-28E) | ソビエト T-28E 中戦車 | HOBBY BOSS | 2015年 | ¥9,350(税込) | プラ完全分割 | <付属品> エッチングパーツ、真鍮ワイヤー |
1/35 | 1940 | ソビエト T-28 中戦車 (円錐砲塔型) | HOBBY BOSS | 2016年 | ¥9,350(税込) | プラ完全分割 | <付属品> エッチングパーツ、真鍮ワイヤー |
1/72 | 1940 | ソビエト軍 T-28多砲塔戦車 (リベット仕様) | TRUMPETER | 2018年 | ¥2,640(税込) | 一体成型 | パッケージは円筒形砲塔だが実際のパーツは円錐形タイプが付属 |
キット解説
T-28中戦車は現在までに10種類のキットが発売されています。
内訳は1/35が6種、1/72が3種、1/100が1種となっています。
T-28は500両以上生産されたためか、多くのバリエーションがあります。一般的な分類は大きく分けて4つです。
見分けるには主砲塔中心に見ていくとよいでしょう。
初期に生産された1933年型は砲塔が円筒形、主砲は16.5口径KT-28戦車砲を装備します。
このタイプが一番多くリリースされていて、1/35と1/72合わせて6種類が3社から発売されています。
ズベズダの1/100キットは低価格ながら初期型と最終生産型の1940年型の2つの砲塔が付属し、どちらかを選択して製作可能です。
T-28B(1938年型)は主砲を26口径に長砲身化した車両です(これはL-10戦車砲と呼ばれています)。
T-28E(1939年型)はT-28Bの改良に加えて装甲を強化したタイプで、前面装甲が60mmと倍増しています。
T-28BとT-28Eはホビーボスが1/35スケールを1種類ずつ発売しています。
最終型の1940年型は砲塔形状が大きく変化したのが印象的なタイプです。
これはより避弾経始を強めて少しでも見かけの装甲厚を増やそうという試みで、後継のT-34からフィードバックを受けたものでした。
1940年型はホビーボスの1/35とトランぺッターの1/72の他に、前述のズベズダ製1/100キットの計3種類が発売されています。
全てのタイプとそのキットを紹介し終えましたが、1933年型についてもう少しだけ書かせてください。
それは1933年型は主砲塔上面ハッチの形式でさらに二つのタイプに分かれることです。
1933年型の前期型とでもいうべき1933~1936年までの生産分は、大型で長方形のハッチが一枚でした。
それが1937年生産分からは大小のハッチが2枚に変更されています。その後砲塔形状が変更される1940年まで、すなわち1938・1939年型まで2枚ハッチが踏襲されます。
この違いは主砲塔が共通部品であるT-35重戦車においても同様です。
そのため表中ではこの1933年後期型を「1933(1937)」と表記することにしました。
1933/B/E/1940の4分類よりメジャーではないかもしれませんが、誰かのお役に立てれば幸いです。
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